紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  本の紹介

   冨田きよむ: やらなきゃ損する 農家のインターネット産直

               2001年 農文協 229頁

 (本の構成)

  はじめに
  第1章 インターネット産直は経営を変える
  第2章 インターネット産直はなぜ儲かるか
  第3章 必要な機器をそろえる
  第4章 農家ならではのホームページをつくろう
  第5章 訪問客を増やして売上げを伸ばそう
  第6章 情報の大地は農家が耕す
  おわりに

(書評)

 著者は、北海道で花栽培農家として新規参入された方で、本書の他にも「農家のマーケティング入門」(農文協)を著すなど、身をもって農業を実践する中で、情報技術を取り入れた新しい農業に果敢に挑戦している。そういった意味で、あるいは、著者の巧みな表現によって、読者は農業者になった気持ちで本書を読み進めることができる。

 本書は、6年前の2001年に刊行されたが、当時とインターネットを巡る状況は基本的にはそう変わっていないと思われる。ただし、当時と較べて現在は、携帯電話も含めたブログやミクシイを代表とするSNS(Social Networking Service)によるコミュニケーションの爆発的増加、Google をはじめとするロボット検索と検索キーワードに連動する広告の登場などが特徴的である。しかし、本書では、情報技術がめまぐるしく進展する中にありながらも、農家がこれからインターネット産直に取り組もうとする場合に出会うであろう様々な問題が、著者自身の体験を通してよく捉えられ、描かれている。
 

 第1章で著者は、インターネット産直は、市場を通さずに農産物を販売することから安売り競争に巻き込まれず、生産者が自分で生産物に値段を付け、農家情報を大事にしながら販売方法に工夫をこらし、インターネットを駆使して有利な直接販売を行うことができると述べている。このためには、自らの経営を見直し、小規模経営で多品目少量生産を目指すべきであるとしている。

 これまでも小規模経営農家の生きる道は厳しかった。一方、農政において国際競争力強化のために、大規模経営農家や集落単位の農業法人に農地を集積する方向が推進されている。しかし、中山間地をはじめとする農山村地域では小規模経営農家が圧倒的に多く、小規模経営農家の活性化なくしては農山村の持続性は望めないと思う。

 著者は、農山村の通信インフラの貧しさ(通信回線の脆弱さ(ブロ−ドバンドが使えないなど)、電話料金の高さ)に触れながらも、インターネットは住んでいる地域によるハンディをなくしたと述べている。インターネット産直は、過疎の農山村を活性化するチャンスを与えると思われる。

 著者は、ホームページを作成しさえすれば、あるいは、インターネット上のショッピングモールに店を出しさえすれば、直ぐに売れて儲かるようになるといった誤まった認識に警告を与えている。そして、インターネットは、むしろ電話やファックスや葉書の延長としての通信手段であるが、はるかに安価に、はるかに多くの情報を、はるかに短い時間で通信でき、双方向のコミュニケーションを取りやすいものであるといった風に考えた方がよいと述べている。そして、農家から消費者に向けて農作業や農山村の暮らしの情報を発信することが、農産物のインターネット産直にとって極めて重要であると強調している。

 第2章で、著者は、儲かるインターネット産直のやり方を紹介し、電子メールの活用、自分を知ってもらうためのメーリングリストへの参加、商売抜きの情報交換や交流による(ホームページ上での)知名度のアップ、大手のショッピングモールに期待せずに将来的に「農家と消費者が利益を共有するショッピングサイト」の立ち上げの必要性などについて述べている。また、インターネット産直に適した物として、輸送コストがかかるので、果実など比較的高価で日持ちのよいもの、農産加工品などを例示している。

 第3章では、パソコンの導入からホームページ作成に至るまでの、ハードとソフト面での技術的側面に触れている。著者は、当初、パソコンやインターネットに素人であったので、その悪戦苦闘ぶりが描かれているが、それを乗り越えたバイタリティーとチャレンジ精神に拍手を送りたくなる。紹介されている機種は、現在市販されているものとはだいぶ異なっているが、選定の考え方などは参考になる。

 第4章から第6章で、著者は、ホームページの作り方、サイトの運営の仕方などを具体的に述べている。特に、ホームページについては、農家の持つ情報を元手に情報の更新をこまめに行い、ファンを獲得していくことが、インターネット産直の成功に重要であると繰り返し述べている。

 著者が中心となり、インターネット産直を行っている農家が集まって作ったウエブサイト「元気ネット」で、ユニークな農家のホームページが紹介されていて興味深い。なお、以前に、本書等を参考にして「インターネット産直を考える」を本ホームページに掲載したので、参照して欲しい。

 本書は、農家によって書かれた数少ない農業情報化の書であり、農山村における小規模経営農家に夢を与えるものである。一方、現実は、農山村における通信インフラの脆弱性、郵政民営化に伴う過疎地での集配局の統廃合、インターネット環境を構築するためのコスト、農山村における情報化推進のための人材等の不足、農家に対する情報化教育環境の貧困など、克服すべきことが多い。

 農家レベル、集落レベルでのインターネット産直に適した農産物や農産加工品の開発と併せて、農山村におけるインターネット環境(住民が使える機器と場所、教わる機会、ウエブサイトの運営方法のスキルアップ機会の提供など)の整備を、行政としても地域活性化の取っかかりとして戦略的に重視し、バックアップしていく必要があると考える。(2007.10.18/記)


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